ホームヘルパーの仕事には、ご利用者様の自宅で調理をする「調理支援」があります。
ホームヘルパーの仕事が初めての人にとっては難しく感じられるかもしれませんが、実は、簡単な時短ワザを知っておけば、短い時間内で料理を提供することができます。
そこで今回は、調理支援の基本やベテランホームヘルパーの失敗例、時間不足を防ぐ5つの時短ワザやカンタンなレシピなどをご紹介します!
訪問介護の調理とは?
訪問介護のサービス対象となるのは、程度の差こそあれ心身状態が衰弱した高齢者の方です。
食べ物を飲み込む力が衰えている方や、食欲が日によって変わるという方も少なくありません。
訪問介護の調理支援は、ご利用者様の要望・体調・持病の状態、そして栄養面を総合的に考えて、本人にとって満足度の高い食事を提供する必要があります。
利用者様の状態は、ケアマネージャー(※以下、ケアマネ)が作成したケアプランまたはサービス提供責任者(※以下、サ責)が作成する訪問介護計画書に反映されています。
訪問介護計画書とは
「訪問介護計画書」とは、ケアマネが作成したケアプランに基づき、サ責が利用者様をアセスメント(評価)をして、利用者様が「できないところ」を訪問介護でどのように支援するかをまとめたものです。
「訪問介護計画書」は、訪問介護事業所のお客様ファイルに必ずはさんであるので、初めて訪問する場合や何かサービスで疑問が生じたときは必ず確認するようにしましょう。
訪問介護で調理を行う頻度
訪問介護の生活援助を利用するための条件は、介護保険の保険者である市区町村によって異なります。
とくに「調理」は利用者様の生活状況に応じた対応が求められるため、独居の方だと頻度は多くなり、家族が同居している方だと少なくなる傾向にあります。
「ケアマネジメント・オンライン」が全国のケアマネジャーを対象に実施したアンケート(※2015年実施、567名から回答)結果によると、調理支援をケアプランに取り入れているご利用者の割合は、約88%を占めており、需要の高さがうかがえます。
ホームヘルパーの調理する頻度は、利用者様が独居かご家族と同居しているかどうかで、変わってきます。
独居の利用者様の場合
- ヘルパーが調理を行う頻度…「週3回」>「週5回」>「週2回」
家族と同居している場合
- ヘルパーが調理を行う頻度…「週2回」>「週1回」>「週3回」
ご家族と同居しているケースでは、パート勤務で調理ができないなどを理由に、ヘルパーにお願いしているのが一般的です。
また、利用者様が独居のケースは、ヘルパーが作る食事をメインとして生活している方も多く、日々のメニューにおけるバリエーションに配慮する必要があります。
献立を決めるときに選ぶ食材に注意!
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筆者の体験では、冷蔵庫に入っている食材を利用者様と一緒に見て、食べたいものを選んでもらったり、あらかじめケアマネやサ責から利用者様の好き嫌いに関する情報を聞いておいて、キライな食材はさけるよう注意しながら調理を行ってきました。
訪問介護は、自分以外のヘルパーが介入することもありますので、献立ノートを利用者様宅に導入することで、同じ料理を作らないよう配慮したり、ヒアリングした味の好みをヘルパー間で情報共有したりすると、より信頼関係を築くことができますよ。
いずれにせよ、利用者様の「食」にこれだけ深く関わるのは、数ある介護現場の中でもホームヘルパーだけでしょう。
ですので、利用者様がなるべく食事を楽しんでいただけるように、調理のスキルも磨いていきたいものですね。
一度の訪問で作る食事の量
利用者様のことを想うと、「お一人のときは食事はどうされているんだろう?」と気になってしまいますよね。
利用者様は、一人では調理が困難ですから、「訪問したときに何食分かまとめて作っておいてほしい」と要望を受けることが多いです。
以下、同様に「ケアマネジメント・オンライン」のアンケート結果から、一度の訪問で作る食事の量について、転載いたします。
独居の利用者様の場合
- 2食分…54.1%
- 3食分…19.2%
- 1食分…14.5%
家族と同居している場合
- 1食分…36.7%
- 2食分…27.7%
- 3食分…3.2%
- 4食分以上…1.2%
ご家族と同居しているケースでは1~2食分が主流である結果に対して、独居の利用者様は2~3食分を作り置きするケースが大半を占めています。
週3~4日パートで働いたとしても、かなり調理をする機会は多くなりそうですね。それでは、ここからは手早く調理支援をこなしていくためのコツについて、説明します。
調理支援のときに押さえておきたい4つのポイントとは
ホームヘルパーは、
「固いものは食べられない」
「持病のために塩分を控えなければならない」
「食欲が低下していて食事に興味を示さない」
など、さまざまなご利用者に合わせて食事を提供しなければなりません。中でも、以下の3つのポイントは必ず押さえておくべきでしょう。
【調理ポイントその1】食材の大きさや固さ
咀嚼しやすい食材の大きさや好みの固さは、人それぞれ。たとえば、白米ひとつを取ってもお粥にしなければ食べられない人や、固めに炊いたものでなければ口にしない人など、ご利用者様によって好みが分かれます。
気持ち良く食事をしていただくためにも、担当するご利用者が食べやすい大きさや固さはどのくらいか、あらかじめ確認しておくと安心です。
【調理ポイントその2】栄養バランス
ご利用者の健康を支える、毎日の食事。ご利用者の好きな物を作ってあげたい気持ちは分かりますが、栄養の偏った食事を続けていると体調を崩してしまう可能性もあります。
毎日食べるものだからこそ、栄養バランスの整った食事を提供できるよう、意識しましょう。
【調理ポイントその3】食欲をそそる盛り付け
ご利用者の中には、歳を重ねるにつれて食欲が低下したり、食事に興味を示さなくなったりする人も……。
せっかくホームヘルパーが栄養バランスの良い食事を作っても、ご利用者に食べてもらうことができなければ意味がありません。
そこで、料理の色合いはもちろん、料理に合った食器選びや食欲をそそる盛り付けを意識することも大切です。
調理支援はただ調理をするだけではなく、相手の状態に応じて調理方法やメニューを考えるのがポイント。
塩分濃度やアレルギーなど、ご利用者によっては調理内容に注意しなければならないケースもあるため、事前にしっかりと情報を確認しておきましょう。
また、ご利用者様との何気ない会話の中から、好きな食べ物や、食事時の悩みなどをヒアリングするのも、ホームヘルパーの大切な役目です。
支援中に得た情報はホームヘルパー間できちんと共有し、今後の支援につなげていきましょう。
【調理ポイントその4】嚥下・誤嚥(えんげ・ごえん)の防止
人は年を取ると、唾液量が減ることでうまく食べ物を呑み込めず、ノドに詰まらせる恐れがあります。
たとえば、誤嚥性(ごえんせい)肺炎を繰り返している利用者様は、細かい刻み食やペースト状の食事、トロミ剤の使用をしているケースもあります。
利用者様の状態を把握していないまま、調理支援をすることは、大きな事故につながる恐れもあるので、十分に気をつけましょう。
調理介護は時間との勝負?!ベテランホームヘルパーも苦い思い出アリ
ホームヘルパーは、調理のためだけに訪問することもあれば、わずか1~2時間の間に調理や掃除、洗濯、買い物など、複数のサービスを提供しなければならないこともあります。
ここでは、筆者の知る先輩ヘルパーが実際に起こしてしまった調理支援の失敗事例をいくつかシェアします。
【失敗事例その1】凝った料理を作っていて支援時間をオーバー
洋食が大好きな80代のご利用者様のご自宅に訪問したホームヘルパーのAさんは、喜ばせてあげたいという思いから、張り切って手の込んだ料理を提供することにしました。
しかし、調理に時間がかかりすぎてしまい、完成したころには支援時間を大きくオーバーしてしまいました。
【失敗事例その2】品数が少ないと苦情が来てしまった
調理が苦手なホームヘルパーのBさんは、限られた時間で一生懸命料理を作っています。
しかし、一度に複数の調理をすることができず、ご利用者から「品数が少ない」「料理が足りない」と苦情が来てしまいました。
【失敗事例その3】急いで調理をしたら「美味しくない」と言われてしまった
ホームヘルパーのCさんは、1時間の支援時間で掃除や洗濯、調理と大忙し。時間内に仕事を終えようと急いでご利用者の昼食を作りましたが、味付けに時間をかけることができず、ご利用者に「美味しくない」と言われてしまいました。
現役ホームヘルパーが実践する時短ワザをご紹介
調理支援は時間との勝負です。ご利用者に満足してもらえる食事を限られた時間内で手際よく調理することは、ホームヘルパーの大きな課題でもあります。
料理が苦手な人にとっては、ホームヘルパーの仕事を諦めてしまうきっかけにもなるかもしれませんね。
しかし、ご安心ください。簡単な時短ワザを知っていれば、これらの失敗を解決することができるのです。
ここからは、ホームヘルパーが実践する調理の時短ワザをシェアします。
【時短ワザその1】電子レンジをフル活用する
野菜の下茹でから蒸し料理、肉料理や魚料理まで、電子レンジはホームヘルパーの強い味方。
じゃがいもやかぼちゃなど、火の通りにくい食材は、ラップにくるんで電子レンジで加熱するのがおすすめです。
じゃがいも(※皮つきでOK)なら、加熱時間は100グラムあたり2~3分(600wの電子レンジの場合)を目安に温めます。
水などで煮るよりも風味が落ちず、味もオイシイんですよ。
レンジは火を使わないため、加熱中にご利用者の見守りをしたり、他の仕事をしたりすることも可能です。ぜひ積極的に活用していきましょう。
【時短ワザその2】食材は小さくカット
食材を小さくカットすることは、ご利用者の食べやすさのためでもありますが、味が染みこみやすく、熱も通りやすくなるので、調理時間の短縮につながります。
根菜類(根や地下茎を食用とする野菜)や鶏肉など、火が通るまでに時間のかかる食材は、加熱時間を考えて小さくカットしておきましょう。
おすすめなのが、カットした食材を冷凍すること。
大根やニンジンは、冷凍することによって細胞壁が壊れ、煮込むと味が染み込みやすくなるのです。
訪問時に切って冷凍庫に入れさせてもらって、翌日の訪問したときにそれを使って調理すれば、時短料理につながります。
【時短ワザその3】市販品(レトルト)を上手く取り入れる
ご利用者の食事は、全て手作りである必要はありません。支援時間や品数によっては、市販品を上手く取り入れるのもポイント。
魚の水煮、サラダ、ソース、カット野菜などを活用すると調理の負担を軽減できるため、検討してみるのもおすすめです。
【時短ワザその4】他ヘルパーとの連携を図る
一人のご利用者様に対して、時間や曜日の異なるホームヘルパーが複数関わっている場合には、他ヘルパーとの連携を図りましょう。
たとえば、朝の担当者に野菜の下茹でなどの下準備を頼んでおいたり、夜の担当者に翌朝の朝食に必要な準備を頼んでおいたりと、お互いの状況を共有し合うことで、調理時間を短縮できることもあります。
【時短ワザその5】ときにはご利用者と一緒に作るのも◎
ご利用者の中には昔から料理が好きな人や、ホームヘルパーとともに簡単な作業を行える人もいます。
ご利用者様には、火や刃物の取り扱いには十分に注意しながら、食材を洗ったり、ソースを混ぜたりと安全な作業を手伝ってもらうようにしましょう。
※なお、ご利用者と一緒に調理を行う場合には生活援助ではなく、身体介護に該当します。
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1時間でやりこなせ!調理サービス簡単レシピ!
時短ワザだけでなく、筆者がふだん実際に調理しているカンタンレシピもシェアします。
★おかゆの時短レシピ
step
1普通食のごはんに茶碗半分ほどの水を入れ、ごはんをほぐす
step
2一度水を捨てた後、もう一度ごはんをほぐし、ひたひたの水を入れて、電子レンジで温める
step
3人肌ぐらいの温度になっていれば、できあがり
★薄味のみそ汁を作る
step
1だし入り味噌は使わず、細粒のだしを半分ぐらい入れて、具材を入れる
step
2具材は、やわらかくなるまで長時間煮込む
step
3楊枝で火が通っているかを確認する
step
4みそをお玉半分ぐらい入れて溶かせばできあがり
★誰でも簡単卵料理
step
1必要な分の卵(お一人暮らしなら1個)に砂糖を多めに入れて、よくかき混ぜる
糖尿病がある方は少なめに入れるか、糖分が少ない砂糖で代用しましょう!
step
2フライパンに油を敷き、かき混ぜた卵を落とし込み、フライ返しを使いながら、半熟卵になるくらいまでに固める
step
3お皿にのせて、できあがり
★朝食にぜひ!!フレンチトースト!
step
1卵2個と砂糖を入れて、よく混ぜあわせる
糖尿病がある方は少なめに入れるか、糖分が少ない砂糖で代用しましょう!
step
2食パン2枚を三角に切り、卵に漬け込む
step
3フライパンにバターを入れて、溶かしたらパンを焼く
step
4ある程度焼けたら、もう一度卵を漬け込み、再びフライパンで焼く
step
5皿にのせて、砂糖をもう一度薄くかけたら出来上がり
ポイント
パン好きなご利用者様の場合、常温でパンを保存するとすぐにダメになるので、冷凍庫で保存しておきましょう。
パンは1枚ずつラップして冷凍庫に入れておけば、調理のときにすぐに使えるので、時短にもなりますよ。
調理が苦手でもホームヘルパーとして活躍できる
今回は、ホームヘルパーが行う調理介護や、調理の負担を軽くする時短ワザなどをご紹介しました。
調理支援と聞いて心配していた人や、調理支援に現在苦戦をしている人も、「これなら自分にもできるかもしれない」と感じていただけたのではないでしょうか。
実際に現場で働くホームヘルパーの意見は、ご利用者様へのより良いサービスを提供するために欠かすことのできない貴重な声です。
どうしても時間内に調理をするのが難しい場合には、サービス内容の見直しや支援時間の延長などが必要かもしれないので、遠慮せず職場のリーダーに相談してみましょう。
訪問介護事業所や各種協会(日本ホームヘルパー協会)などでは、訪問時に調理するメニューの幅を広げてもらうために、「調理実習」をテーマにした研修会が定期的に行われています。
調理実習では、要介護認定を受けた高齢者を想定し、実際に架空のサービス計画書も作成して、その内容に沿って調理していく、という形で行われることが多いです。
手早く作れる料理のバリエーションを増やせるだけでなく、嚥下機能の衰えた方向けの食事の作り方など、ヘルパーが知っておくべきことをたくさん学べるので、機会があればぜひ参加しましょう。
ひとりでご利用者宅へ訪問するとはいえ、ホームヘルパーの仕事もチームワークです。
困ったことがあれば、先輩やリーダーに相談しながら仕事を進めていけますので、料理が苦手な人も安心して一歩を踏み出してみてくださいね。