訪問介護のお仕事は、登録ヘルパーやパート勤務の場合、好きな日時に働けるメリットがある一方で、自分の希望する時間帯に仕事が回ってこないと、なかなか収入が上がらないデメリットがあります。
ここでは、訪問介護事業所の掛け持ちをしたときに起こる問題点の対処法や、知っておきたい知識などをまとめた内容をシェアします。
訪問介護事業所の掛け持ちはやってもいいの?
一言で訪問介護と言っても、雇用形態は正社員からパート、登録ヘルパーまで様々ある中で、それぞれと交わす契約内容は一律でないため、掛け持ちは〇か×かを判断することはできません。
2018年に法改正が起こり、副業を推進する動きが世の中に出てきていますが、依然として禁止している事業所もあります。
たとえば、在籍する職員すべて掛け持ちを含む副業すべてを禁止しているケースもあれば、パートや登録ヘルパーのみ許可しているケースもあります。
あるいは、他業種の副業は許可していても、個人情報などの秘密保持の観点から、同業者の掛け持ちは許可しないパターンもあるため、個人の判断を下すのはオススメできません。
バレなければ大丈夫と思っていても、所得金額アップに伴い住民税が増額することで、発覚することもあります。
訪問ヘルパーが掛け持ちをする理由
そもそも、低賃金が問題視される介護業界では、副業やダブルワークをするヘルパーは珍しくありません。
しかし、訪問ヘルパーが複数の事業所を掛け持ちするのは、収入をアップさせること以外にも理由があります。
それは、一つの事業所だけでは希望通りの働き方が実現できないこと。
訪問介護は、ご利用者の通院や体調不良、入院、生活状況の変化(ご家族との同居が決まったなど)、入所や死亡により提供するケアに変動が起こるため、シフト通りの働き方ができないケースがあります。
ホームヘルパーのアルバイトをしている女性からの相談なのですが、突然担当の利用者が入院されてしまい長期間になりそうな状態とのことです。
その間入る予定だった勤務時間が大幅に減り賃金が大幅減になるとのことなのですがこの場合どのような対処方法があるでしょうか?
ご利用者の容態がいつ急変するかは、誰にもわかりません。
対処法としては、事業所を掛け持ちすることで、お仕事をもらいやすい状況を作っておくしかないでしょう。
「子育てもあるし、週1~2日の空いた時間に働きたい」といった希望を持つ主婦層はとくに、ご利用者のニーズとマッチしなければ働くことができないため、限られている時間を最大限に活用することを目的に、掛け持ちをしています。
ヘルパーの掛け持ちは、他にもさまざまなケースがあります。
- ご利用者がサービスを受けたいお気に入りのヘルパーがいる場合に、ご利用者自身が複数の事業所を利用しているときは、ヘルパーはご利用者に合わせて他の事業所へ登録する。
- 在籍する事業所に、登録ヘルパーはさまざまな事業所で経験を積んでいくべきとする方針がある。
無断で掛け持ちをしているとバレる可能性が高い
事業所が離れていれば黙って掛け持ちしてもバレないだろう…と思いがちですが、介護業界のコミュニティは意外と狭い上に情報は広まりやすい性質があります。
事業所の就業規則によっては、掛け持ちがバレたことでペナルティが課せられることもあるかもしれません。
掛け持ちを希望する訪問ヘルパーのほとんどが、「働きたいのにシフトに入れない」ことに不満を持っているでしょう。
事業所としても、やる気のある訪問ヘルパーは貴重な人材ですから、気持ちを伝えることで優先的に仕事を回してくれる可能性もあります。
事業所によっては、「家庭の事情でお金がどうしても必要」なパートや登録ヘルパーを対象に、就業規則には原則禁止となっていても掛け持ちを許可してくれるところもあります。
ヘルパーのサービス提供責任者をしております。
最近、ヘルパーの一人が当事業所には内緒で同じ地域内の訪問介護事業所で働いている事が分かりました。介護保険制度的には問題ないと以前の書き込みにありました。
しかし同じ地域内なので利用者に対するプライバシーの問題や最悪、利用者の引き抜き等ヘルパーの職業倫理的な問題も心配する声が挙がっています。
ご利用者と直接契約を結ぶ事業所にとって、ヘルパーの掛け持ちによって一番困るのがトラブルです。
きちんと両方の事業所に報告して、シフトが重ならないように調整すれば、依頼された仕事を断ることもなく、円満に仕事ができます。
掛け持ちするメリット
お仕事が増えれば収入アップが期待できる
訪問介護のお仕事で稼げるかどうかは、いかに自分の担当ご利用者を増やせるかどうかです。
しかし、在籍する事業所に他ヘルパーがたくさんいたり、そもそもご利用者が少ない環境では、働きたくてもお仕事が回ってきませんよね。
担当ご利用者が入院してしまったり、お亡くなりになった場合は、突然お仕事を失うリスクもあります。
事業所の掛け持ちは、収入額のアップを実現するとともに、突然お仕事を失ったときのリスク回避にもつながります。
(※一部抜粋)
訪問介護を始めて1ヶ月になります。面接で「いくら稼ぎたいですか?」と聞かれました。
欲を出すのも印象悪いと思い「最初はとにかく経験を積ませて下さい、慣れてきたら稼がせていただきます」と答えました。もちろん、まだ1ヶ月なのでそうそう仕事は回ってこないとは思っていますが、1日1件の訪問では、こちらの生活が成り立ちません。
これから事業所へ面接に行く方は、月にいくら稼ぐ必要があるのか?ある程度のラインを伝えられるよう、ご家族と話し合って検討しておくと良いかもしれないですね。
(※一部抜粋)
訪問介護ヘルパーをしていますが 仕事が少なく、(ヘルパーの希望時間が午前中に集中しているため)転職を何度も考えますが踏み切れません。
とても私を気に入ってくださる利用者さんからの「ずっと来てね。」の言葉を振り切れないのです。
そのため懇意にしている利用者さん(というか遠くて私しか訪問していません)のみ残して、他の施設などと掛け持ちしようと考えています。
ご利用者とは、あくまでお仕事上のお付き合いとはいえ、長く接していれば情が移りますし、難しい問題ですよね。
しかし、あくまで自分の人生としてこの問題を考えたら、やはり掛け持ちを検討するべきなのでしょう。
ヘルパーとしてのスキルアップと自分に合う職場探し
ヘルパーは、「施設勤務しか経験がないから、訪問介護をやってみたい」あるいは逆に、「今まで訪問介護しか経験してこなかったので、施設で働いてみたい」など、「施設」「訪問」どちらかしか経験していないケースが多いです。
たとえば、平日は訪問介護で働いて、週末土日どちらかを施設で働く、ダブルワークスタイルのヘルパーは珍しくありません。
もちろん、訪問事業所を複数掛け持ちしているヘルパーもいます。
お金を稼ぎつつ、いろいろな角度から介護の知識や経験を得られるため、上級資格へのスキルアップを目指したい人は掛け持ちをするケースは多いです。
同じ訪問介護の仕事でも、身体介護にチカラを入れている事業所があれば、認知症のご利用者への対応にチカラを入れている事業所もあり、運営方針は様々です。
複数の事業所を掛け持ちして、最終的に自分に合った事業所を絞り込む職場の探し方もあります。
空き時間を有効活用できる
主婦の方などは、「子どもが学校に行っている日中の数時間だけ」「時間にゆとりのある午前中だけ」「家事が一段落する13時から16時まで」など、空き時間を利用して少しでも収入を得たいと考える方は多いでしょう。
しかし、最初に入った事業所で、必ずしも希望条件に合ったお仕事がもらえる保証はありません。
希望を出してもお仕事がこない事業所の場合、待たずに他の事業所へ登録してしまった方が、時間を無駄にせず働ける可能性がアップします。
ただし、複数の事業所から同じ時間帯にお仕事が入る事態は避けなければいけないので、掛け持ちすることは必ず事業所へ伝えてください。
介護福祉士の受験資格に必要な「従事日数」が稼ぎやすい
介護福祉士の資格取得を実務ルートで目指す場合、以下の条件をすべてクリアする必要があります。
- 従業期間3年(1095日以上)
- 従事日数540日以上
- 実務者研修の修了
従業期間とは、育休や産休などを含む、事業所の在職期間です。
従業期間に関しては、仮に週一日しか働けない環境だったとしても、在職さえしていればカウントされます。
従事日数とは、研修などを除く介護の業務を担った日数です。
従事日数は、たとえ一日30分の介護サービスだったとしても、「1日」としてカウントされます。
施設勤務であれば、在職だけしていることは難しいですし、1日30分といった短時間勤務はまずありません。
その点、訪問介護事業所であれば、掛け持ちをしながら日々少しでも介護業務に従事していれば、忙しい主婦層でも実務経験の積み重ねをしていくことが可能です。
いずれは介護福祉士の国家試験を受験したいと思っています。
そこで質問なんですが、訪問介護で働く際に、事業所を2~3軒掛け持ちで登録し、同じ日の午前と午後を別々の事業所の利用者さんのお宅へ訪問介護に行った場合、その日は各事業所で1日分の稼働日数が記録されるという事は、実務経験証明書上では通算「2日分」としてカウントされる事になるのでしょうか?
上記の疑問ですが、違う事業所であっても、同一日に介護業務に従事しているため、カウントは「1日」のみで2日分とはならないです。
下記の「社会福祉振興・試験センター」サイトに詳細が掲載されています。
複数の事業所に入退職を繰り返している方は、早めに「実務経験証明書」「従事日数内訳証明書」を送付してもらえるよう、電話などでお願いしておきましょう。
上記の書類作成に必要なフォーマットは、下記のURLからダウンロードが可能です。
実務経験証明書、従事日数内訳証明書の様式と記入方法:
http://www.sssc.or.jp/kaigo/youshiki.html
掛け持ちするデメリット
スケジュール管理が難しい
多くの事業所では、それぞれが担当する利用者の支援について話し合ったり、介護知識を深めるための勉強会が開かれたりと、定期的に集まる機会が設けられます。
所属する事業所が多ければ多いほど各事業所の予定が重なりやすく、スケジュールの調整が難しく感じる人もいるかもしれません。
また、自分の予定だけでなく家族との予定も合わせにくくなるため、これまで以上にスケジュール管理を意識する必要があります。
時間ごとに細かく管理ができるバーチカルタイプの手帳や、スマホのスケジュール管理アプリなどを活用するのがおすすめです。
急なシフト変更に対応できない
訪問介護の仕事では、他のヘルパーが体調不良などで訪問できない場合や、担当のご利用者から「来週は都合が悪いので訪問時間を変えてほしい」と相談を受けた場合など、ホームヘルパーや利用者の都合により訪問日時を変更しなければならないことがあります。
できるだけ柔軟に対応するのが理想ですが、他の事業所を掛け持ちしていると時間の融通が利きづらいため、急な変更に対応できないケースもでてきます。
お互いが気持ち良く働くためにも、変更が難しい曜日や時間帯はあらかじめ上司と共有しておいた方が安心です。
また、欠員が出たときや、緊急で入った訪問に対応できるヘルパーに仕事を優先的に回す方針の事業所もあるので、掛け持ちになるとかえって仕事が少なくなることがあります。
イチ事業所で残業手当込みの割増賃金を受け取るのが理想
私たち労働者には、労働基準法(※以下、労基法)によって「一日8時間・週40時間」を超えて働いた分は、残業手当がついた割増賃金を受け取れる権利があります。
働く職場が一か所なら、残業や休日出勤をすれば通常「割増賃金」がもらえますが、2か所以上の職場を掛け持ちしている場合、トータル労働時間が週40時間のラインを越えたとしても、残業手当がつくことはまずないでしょう。
ポイント
労基法によれば、2か所以上の職場でそれぞれ就業している場合、合算した労働時間が週40時間をオーバーしていれば、多く働いた職場が割増賃金を支払うルールとなっていますが、掛け持ちしているダブルワーカーの労働実態の把握が困難であることから、実現することは難しいでしょう。
残業分の割増賃金をソンせず受け取りたいヘルパーには、掛け持ちはオススメできません。
(とはいえ、在籍していてもお仕事を与えてもらえない事業所なら、掛け持ちを検討すべきです)
複数の事業所で社会保険加入要件を満たすと…
平成28年度10月の法改正により、以下の条件を満たすものは、たとえパートでも社会保険に加入しなければなりません。
① 週20時間以上
② 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
③ 勤務期間1年以上見込み
④ 学生は適用除外
⑤ 従業員 501人以上の企業
厚生労働省の公表によると、パート勤務者推定400万人のうち、社会保険加入の条件に当てはまる方は、約25万人です。
低賃金といわれる介護業界で掛け持ちしても、上記の条件を満たすケースは少ないでしょうが、気になる方は在職している事業所へ確認をとるのが一番確実ですね。
上記の新要件に該当しない場合でも、「1日または1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の社員のおおむね4分の3以上」であれば、やはり社会保険の加入義務が課せられます。
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まとめ
訪問介護事業所の掛け持ちについて、メリットデメリットなどをまとめました。
子育て主婦などは、どうしてもお仕事が断続的になるため、キャリアアップしていくことが難しい側面があります。
しかし、ヘルパーの場合、空いた時間に少しでも介護業務に携わっていれば、介護福祉士受験に必要な実務経験が加算されていくので、将来への投資としてコツコツと働く主婦ヘルパーも結構います。
掛け持ちで働く場合、家庭との両立が可能な無理のないスケジュールで、体調を崩さぬよう頑張るのがコツです。