介護施設とは、特別養護老人ホーム(※以下、特養)や介護老人保健施設(※以下、老健)といった、施設で生活するご利用者の介護を行うところです。
一方、訪問介護とは、ご自宅で暮らすご利用者を対象とした働き方なので、それぞれ仕事内容や給料、雇用形態まで様々な違いがあります。
訪問介護事業所でホームヘルパーとして働く方の中には、施設勤務と何が違うのか気になっている方も多いと思います。
ここでは、介護施設と訪問介護それぞれの違いについて、ご説明します。
訪問介護事業所に勤務するメリット
- ご利用者の介護度が低い傾向にある
- ご利用者と密なコミュニケーションがとれる
- 職員同士の人間関係に悩まない
在宅で暮らせるご利用者は、介護施設と比較して、ADL(日常生活動作)、IADL(手段的日常生活動作)に支障が少ない介護度の低い方が多い傾向にあるので、体力的な負担は少なめです。
IADLに支障がないご利用者であれば会話も楽しいですし、仲よくなればまるで友人宅へ遊びに行くような感覚でお仕事ができるのが訪問介護の魅力ですね。
ホームヘルパーは、基本的に1人で完結できるお仕事ですから、職員同士の陰湿なイジメなどの問題がほぼありません。
しかし、サービス提供責任者(※以下、サ責)を担当する方の場合は、ヘルパーのシフト調整の際に「〇〇さんばっかり希望休日が通ってる!エコひいきしないでください!」とか、「〇〇さんばかりラクなご利用者宅へ行ってませんか!?」など、終わりの見えない職員同士のイザコザに巻き込まれる事例も(苦笑)。
介護施設に勤務するメリット
- 夜勤手当がつけば手取り額は多い
- 介護技術の習得が早い
介護施設では、夜勤専門に行う夜勤専従者という働き方もあるほど、夜勤手当を目当てにする介護士は多いです。安定してたくさん稼ぎたいなら、介護施設で働くべきでしょう。
介護技術に関しては、訪問介護の場合、要介護度の低いご利用者のケアばかり担当したり、生活援助のお仕事ばかりを経験していると、なかなか向上しませんが、特養に勤めれば基本的にどこの介護現場へ行っても通用する技術が身につくといわれています。
訪問介護事業所に勤務するデメリット
- 生活援助があるため、家事の苦手なヘルパーには不向き
- 訪問先への移動コストが高い
- 基本的に1人ですべての対応を求められる
まず、訪問介護の求人には、身体介助のみのお仕事もありますが、調理や洗濯、掃除などの生活援助ができたほうが多くのシフトに入れるため有利です。
次に、ホームヘルパーの移動に関する問題はとても大きく、働くエリアによっては長距離移動を強いられることもあり得ます。
車移動の場合は、交通費の負担や自家用車にかかる負荷も視野に入れて検討する必要がありますね。
最後に、セクハラ問題です。
ホームヘルパーをやっていてコワイのが、緊急時の対応やご利用者またはそのご家族からのセクハラ等、すべての問題を一人で対応せざるを得ないところです。
しかし、事業所にはサ責やケアマネがいるため、相談できる環境じたいはあります。
介護施設に勤務するデメリット
- 施設内の人間関係に疲弊する
- 夜勤を含むシフト制は健康を害する
- ご利用者のリズムに合わせた介護を実現しづらい
まず、介護施設勤務で真っ先に問題視されるのが、職場の人間関係です。
介護施設へ転職するときは、まず事前調査や職場見学などで職員同士の関係性をチェックすべきですし、働いていてどこかで陰口を言われても物おじしない強い精神力も求められます。
次に、シフト勤務に関しては、夜勤もやるとなると、生活のリズムはかなり乱れることになりますから、眠気対策も必要ですし、体調を崩さないよう管理することも大切になってきますよ。
最期に、ご利用者のケアですが、つねに1対1で向き合う訪問介護と違い、たくさんのご利用者を施設のスケジュール通りにケアしていくため、どうしてもスピードは重視せざるを得ない風潮はありますね。
勤務時間の違い
施設では介護を必要とする24時間ご利用者が生活しているため、日勤と夜勤の交代制が主流です。
介護施設の求人を見ていると、筆者がよく目にするのは「早番」「遅番」「夜勤」の3交代制、あるいは「早番」「中番」「遅番」「夜勤」の4交代制もたまにあります。
つまり、朝昼晩深夜、あらゆる時間帯で稼働するのが介護施設ですね。
一方で、訪問介護求人は、基本的に午前8時から午後6時が基本の営業時間となっており、この他の時間帯は以下のようにサービス料金に加算されるしくみになっています。
- 早朝加算…午前6時から午前8時は「25%増」
- 夜間加算…午後6時から午後10時「25%増」
- 深夜加算…午後10時から午前6時「50%増」
訪問介護の求人には、ご自宅で暮らすご利用者の介護と、もう一つ、サービス付き高齢者住宅(※以下、サ高住)のご利用者の介護がありますが、前者の在宅介護に関しては、現状、早朝や夜間の時間帯に働ける求人はかなり少ないですね。
訪問介護で夜勤もやりたいなら、サ高住で働ける求人を探すのがオススメです。
最後に、介護施設の夜勤について捕捉ですが、医労連(※日本医療労働組合連合会の略。医療・介護・福祉等で働く労働者が組織する労働組合の連合体)が公表する調査結果によると、多くの施設が「1人夜勤」「長時間夜勤」による2交代制を強いられています。
詳細は上記の資料に掲載されていますが、132施設、174職場、3,646人を対象とした調査結果をまとめると、以下のようになります。
- 2交代制夜勤を採用しているところは約9割
- 16時間以上の夜勤をしているところは約7割
- 勤務終了から次の出勤まで12時間未満となっているところは約2割
- グループホームや多機能施設ではすべてが2交代制であり、1人夜勤
- 4割以上の施設に仮眠室がない
求人広告と実際の労働条件が違うケースは、残念ながら良くある話です。もしかすると、求人広告の内容と実際のシフト編成に違いがある可能性はありますね。
給料(賃金)の違い
介護施設と訪問介護の給料については、厚労省が公表している「平成29年賃金構造基本統計調査」データから比較すると、以下のようになります。
平均年齢 | 勤続年数 | 平均賃金 | ボーナスその他手当 | 労働者数 | |
---|---|---|---|---|---|
ホームヘルパー | 46.9歳 | 6.6年 | 236,500円 | 297,600円 | 7,998人 |
介護施設 | 40.8歳 | 6.4年 | 233,600円 | 493,300円 | 81,372人 |
介護施設の方が賞与・手当の金額が高いのは、夜勤手当がつきやすいのと、パートや登録ヘルパーなどの非常勤勤務が多いからでしょう。
安定してお金を稼ぎやすいのは、介護施設求人と考えて間違いありません。
雇用形態の違い
雇用形態は、介護施設・訪問介護それぞれ「正社員(職員)」「契約社員(職員)」「パート・アルバイト」の募集がありますが、訪問介護は登録制で働ける独自のしくみがあります。
詳細はこちら ↓
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登録ヘルパーとは
訪問介護のヘルパーとして働こう!と求人を見ていると、職種欄などで「登録ヘルパー」の呼称を目にします。 一方で、雇用形態の欄をみると「パート」だったり「アルバイト」と記載されているため、登録ヘルパーとパ ...
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介護求人サイト「ジョブメドレー」で求人数を雇用形態別に調べてみると、以下の数値が出ました。
訪問介護 | 介護施設 |
|
---|---|---|
正職員 | 3,019 | 3,130 |
契約職員 | 395 | 501 |
パート・バイト | 4,355 | 1,930 |
訪問介護はパートの需要が高いお仕事ですが、近年では在宅介護の移行意識が高まっているからか、正職員の募集も非常に多いですね。
いずれにしろ、売り手市場の介護業界の求人は、自分に合った雇用形態を選択できる自由はあるといえます。
訪問介護と施設介護の違いまとめ
下表は、訪問介護と施設介護それぞれで働いたときのメリットデメリットをまとめています。
訪問介護 | 施設介護 | |
---|---|---|
メリット | ・ご利用者の介護度が低い傾向にある ・ご利用者と密なコミュニケーションがとれる ・職員同士の人間関係に悩まない | ・夜勤手当がつけば手取り額は多い ・介護技術の習得が早い |
デメリット | ・生活援助があるため、家事の苦手なヘルパーには不向き ・訪問先への移動コストが高い ・基本的に1人ですべての対応を求められる | ・施設内の人間関係に疲弊する ・夜勤を含むシフト制は健康を害する ・ご利用者のリズムに合わせた介護を実現しづらい |
日勤を希望しており、ご利用者とゆっくり関わりたい方は、訪問介護の方が適性があるといえるでしょう。
これまで施設勤務で、職員同士の人間関係に嫌気がさしている方にも、オススメです。
給与に関しては大きな差はみられないものの、賞与や夜勤手当等の福利厚生面においては、施設勤務が恵まれています。
介護技術の習得にも向いていることから、長期的なキャリアアップを目指す方に向いているといえますね。
雇用形態に関しては、今回取り上げていませんが人材派遣というスタイルも魅力的です。
人材派遣とは、2~3か月の有期雇用契約で働く非正規雇用ですので、「職場をある程度調べてから入職したい」ニーズの多い介護業界においては、重宝されます。
ただし、訪問介護のお仕事は、あまり派遣求人は多くありません。