職務経歴書の「退職理由」に関しては、書類選考でも重要視されますし、面接の場でほぼ聞かれると思っておいていい項目です。
ここでは、退職理由を考えるポイントや、実際に介護職員の採用活動に関わったご経験のある面接官からヒアリングをした、おすすめの退職理由をいくつか紹介します。
退職理由を考えるポイント
退職理由は、介護業界問わず、前向きな理由でないケースがほとんどですよね。
「上司が高圧的だった」「同僚からイジメにあった」など、後ろ向きな理由から退職された方が多いでしょう。
前職場に退職理由を伝えるときは、円満に辞めるためにあえてオブラートに包んだり、逆に引き止めに合わないよう強く非難する必要はあるかもしれません。
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しかし、転職面接の場において、後ろ向きな退職理由をそのまま正直に伝えるべきか?と考えると、答えはNoです。
なぜなら、面接の場は退職ではなく、採用してもらうことが目的だからです。
採用してもらいたいなら、退職理由が何であれ、面接官にネガティブな印象を与えないように伝えることが求められますよね。
なぜ面接官は退職理由を聞くのか?を考える
面接官は、応募者の情報は提出される書類以上のことは分かりません。
相手のことが分からないまま採用するのは、事業所側にとって非常にリスキーなので、退職理由を聞くことで、採用すべき人材なのかどうかを見極めたいわけですね。
海外企業では、中途採用者の前職場へ退職した理由を調査することもあるようです。
しかし通常は、前の職場を調査することはありませんから、面接官は目の前にいる応募者の雰囲気や発言などを元に、以下のポイントに絞って採点をしています。
- 自分に矢印を向けているか?
- 自社で採用後、すぐに辞めてしまわないか?
まず、「自分への矢印」とは、退職した理由を自分以外の責任へ転嫁しているかどうか?ということです。
たとえば「上司が厳しくてイヤだった」のが退職理由なら、その上司に対して自分がどんな行動をして改善に向かったのか?など、面接官は本質的な部分をみています。
次に、採用後にスグ辞めてしまわないかも気にしています。
たとえば、退職理由が「給料が低かったから」などと言われると、あまり給与額をアップできないから採用してもスグに辞めてしまうかも?と思いますよね。
面接官は、自社の社風や介護方針が、応募者の理念とマッチしているかどうかも、しっかり見ています。
後ろ向きな退職理由を前向きな転職理由へ作り変える!
誰もが後ろ向きな理由で退職するわけですが、面接では前向きな転職理由へ変換して伝えることが重要です。
前向きな転職理由は、ウソをついて作る必要はなく、あくまでも退職理由を元に考えていきます。
例として、冒頭で挙げた退職理由を元に、変換してみると、
- 上司が高圧的だった…御社に入職できたら、今度は自分が部下を持つポジションへ昇進して、自分がされて困ったこと、改善してほしかったことを変えていける人材を目指します。
- 同僚からイジメにあった…前職では、希薄な人間関係が原因で、私がイジメの標的になってしまったのだと思います。御社に入職できたら、自分から積極的に明るい挨拶や昼食を一緒にとって世間話をするなどで、コミュニケーションを深めていくことで改善していきたいです。
誤解のないようにお伝えしますが、上記の退職理由は、自分に非がまったくなく、完全な被害者であるケースではあります。
しかし、面接の場では、面接官に自分という人材をアピールする場ですから、「私を採用すれば御社にメリットがありますよ」と伝える必要があるわけですね。
おすすめの退職理由まとめ!
ここからは、実際に介護の面接官を担当した方の体験談から、NGな退職理由とおすすめの退職理由をそれぞれ紹介します。
NGな退職理由
給料が安かった、職場の人間関係が良くなかったなど、前の職場のマイナスイメージをはっきり言う人はイヤな感じです。
私どもの職場を辞める時も、他で同じような言い方をされてしまうのではないかと思ってしまいます。
今まで面接を担当した方は、前職が介護職の方は1名しかおらず、それ以外はアパレルや営業、フリーターの方ばかりでした。
異業種組の面接経験からいうと、退職理由として「周囲とうまくいかなかった、馴染めなかった」といったニュアンスは採用しづらいですね。
介護士の退職理由で、「キャリアアップ」「経験の幅を広げたい」などはポジティブですし鉄板ネタではありますが、「弊社へ入職してもすぐに辞めてしまうのでは?」と腰かけの印象を感じる場合は、話は別ですよ。
ポジティブであり、かつ、長く勤めてくれそうな方が望ましいですから。
私の前の職場は、ヘルパーの個別評価をしない方針だったためか、「どうせ誰かが介護してくれるだろう」とみんな手が空くとタバコを吸いに行ってました。
シワ寄せは、普通にお仕事をするヘルパーにいくため、頑張れば頑張るほどソンをするだけに感じたので、転職を決意しました。
最期のNG退職理由は、同情ができるし賛同できる内容ですが、別の見方をすると「他人が評価してくれないんなら働かない」と言っているようにも聞こえますよね。
頑張る理由が、評価を求めるのではなく、自分がトクをしたいからでもなく、前向きな目的でないと、好印象を与えることはできないでしょう。
おすすめの退職理由
前の職場の設備や仕事内容など良かった点を言いつつ、方向性が変わったことをはっきり言うと良いイメージです。
介護施設では入居者どどのように寄り添っていきたいのか、施設をどう大きくしていきたいか述べる人はしっかりしている印象でイメージがアップしました。
介護の仕事では、職員自身が考えて行動すべき場面が多々あるので、新しい職場で様々な企画や仕事にチャレンジしたいと思って退職された方は好感が持てます。
チャレンジ精神のある方は、即戦力となりますし、苦境を乗り越えることができるためです。
新たな事業所で取り組みたいことを理由に退職したことは高評価します。
どんなに介護の仕事が好きで、頑張っても、キャリアアップできない事業所はあるからです。
前職の会社では、人事異動が頻繁にあったので、あるときは3ヶ月勤務しただけで、新規オープン予定の老人ホームへの異動したことがあります。
新規オープンに携わることは、成長できる大きなチャンスとなりますが、ここまで異動の多い環境だと、私が目指したいご利用者と長期間に渡る信頼関係に基づいた介護の実現が不可能だと感じて、退職を決意いたしました。
異動が多かった前職場を悪く言うのではなく、肯定した上で自分の方向性とは合わないことが表現できていますね。
前職は、特別養護老人ホームでしたが、人員不足のため、まともなケアが提供できませんでした。
たとえば、入浴介助のときには、7名程度の入居者を横に並べて椅子に座らせて、一気に背中めがけてお湯をかけるやり方が当たり前でした。
人員不足の施設で介助をすることは、入居者を尊重することは不可能であり、人権を踏みにじることだと考えて、退職を決めました。
信頼できるな、と思えるのは、家族の介護のために介護離職した方です。
とくに、ご家族がすでに亡くなられていてなお、介護職を志望する方が、優秀な傾向にあります。
介護の看取りまで経験しているのに、なぜまた介護業界で働こうと思ったかを聞くと、「親の介護を終えて、介護の奥深さを知ったのと、今思えば、もっといい介護をしてあげたかったなと思い、亡くなったあと勉強して資格を取りました」といった、期待の持てるエピソードが返ってくることが多いんですね。
実際に採用してみると、まなざしはとても優しく、ままならない現実にイライラしているご利用者やご家族に、「分かります私もそうだった」とそっと肩を撫でてあげるような、そんな優しさ溢れる方が多いです。
前の職場では、業務効率や利益を優先しすぎるあまり、利用者さんの気持ちや思いをまったく考えていませんでした。
私も、業務効率や会社の利益は大切だと今でも思いますが、このまま「利用者さんに対して思いやりのある介護や手助けをしていきたい」という自分の気持ちに嘘をつきながら働いていくのが難しいと思ったため、退職いたしました。
会社を否定して終わるのではなく、方針や考え方を一度肯定した上で、退職理由を述べると良い感じですね。
「何度か転職を繰り返しているのは、さまざまな介護現場でスキルアップをするためでした。
そして、今私が思い描いている介護論と御社の介護方針がとても合っていて、この地域介護に貢献できると思い、応募いたしました。」
1つのサービスの偏った知識だけでなく、色々見てきたからこそ提供できるサービスがあると期待して採用しました。
また、地域介護への貢献という言葉を聞いて嬉しい気持ちにもなりました。
その方は3年経った今でも、弊社で活躍しています。
介護は離職率が高い業種ですが、だからといって理由もなく職を転々としていれば、面接官からの評価は下がります。
転職を繰り返した理由を伝えた上で、「次は御社で長く勤めたい」気持ちを伝えれば、好印象につながりますね。
まとめ
退職理由はさまざまあると思いますが、できれば面接の場ではそのまま「自己PR」や「志望動機」などの話へつなげて、話を聞き終わった面接官に良い印象を持ってもらいたいところです。
繰り返しになりますが、面接官が退職理由を聞いてくるのは、真実を聞きたいからではなく、問題に直面したり、困難な状況に陥ったときにどんな考え方で乗り越えていくのか?仕事観を聞きたいんですね。
ですので、退職時に感じたことをそのまま伝えないのは、ウソを言ったことにはなりません。